スーパーの朝は早い。毎朝六時には配送センターからトラックが到着し、大量の商品と材料が下ろされる。これが一日に三度。
小柄な女性パートさんが百キロを超える荷物を満載したワゴンを二台同時に引く姿を最初に見た時は驚いた。スーパーの舞台裏は男も女もない生身の人力の世界だ。

『仁科さん、運ぶのはもういいから朝一作業やって』

『はい、ありがとうございます』

『アンタ遅くて作業が間に合わねぇからだよ』

『…………』

運搬から離れ、すごすごと作業部屋に入る。

精肉部の一日は朝一作業と呼ばれる仕事で始まる。
朝一作業は時間との闘いだ。開店時間までに売り場を埋めるべく、牛、豚、鶏の三手に分かれて大量の肉を部位別・目的別にカットしパック詰めする。私は鶏担当で、必死でやっても開店時間に間に合わない。常人の限界を超えた目標設定が当たり前なのだ。

『仁科さん! そこの八段カートは何なの⁉』

『あっ、先ほどの指示分です! もうできてます』

ところが胸を張って答えた私の笑顔にヒステリックな怒声が跳ね返ってきた。

『何やってんの! 冷蔵室に入れなきゃダメでしょうが、早く!』

「は、はいっ⁉」


頭の中でクエスチョンマークを飛ばしながら慌ててカートを冷蔵室に運び込む。
あとで柳井君に訊くと、加工を終えたものは値付けまでのわずかな時間でも冷蔵室に移す決まりだそうだ。スーパーの現場ではたくさんの細かなルールで鮮度と安全を守っている。