そして案の定、攻撃の矛先は母の目下の懸案事に向けられた。

『あなた、菱沼で誰かいい人見つけてるの?』

「一か月前にも同じこと訊いたばかりじゃない。誰もいないわよ」

『どうするのよ。タママートにエリートなんかいないでしょ!』

母の口はこれだけでは止まらなかった。

『大学でも菱沼でも周りにエリートがいっぱいいたのに、どうして一人も捕まえられないの? 情けない娘だわね。お嬢さんはご結婚まだですかって毎日のように近所に訊かれるお母さんの身にもなってみなさいよ。恥ずかしいったらないわ』

「何よ、勉強しろ勉強しろってずっと言ってきたくせに、今度は男を捕まえろって? じゃあキャバ嬢にでもなれば満足なの⁉」

なれないけども。自分で突っ込む。
でも積年の憤懣と、魅力がない自分の情けなさと、今日の疲れと絶望と、いろいろなものが一気に爆発してつい逆ギレしてしまった。

「勝手なこと言わないでよ! お母さんの見栄と都合でコロコロ違う生き物に変われないわよ。私だってね、私だってねぇ……、明日早いからもう切るね!」

『待ちなさい紺子! 新しい住所はど──』

一気にまくし立てたものの続かなくなり、通話を電源ごと落とした。