『次は唐揚げ! ペーパー替えて!』

言われるまま必死でミートペーパーをちぎったところでハッと我に返る。これではキリがない。唐揚げじゃなくて、退職するのよ。

『あの、私』

『二番は六個、二十番は九個、一九四番は十二個入り、わかった? 二番は六パック、二十が十、一九四は八』

また意味のわからない数字をまともな説明もないまま機関銃のように連発され、聞いた端から抜けていく。

矢部さんの剣幕に押されて切り始めたものの、包丁を持つ手つきはかなり怪しい。
仕方ないじゃない、まともにお肉を切ったことなんか数えるほどしかないんだから。……とは怖くて言えない。

しかし矢部さんにはすぐ見破られてしまった。腕組みをした矢部さんの冷ややかな目が呆れ返ったように私を眺める。

『ねえ。アンタさぁ、料理したことあんの?』

『……あの、実は、あまり』

『…………』

恐ろしい沈黙のあと、チッと舌打ちが聞こえた。

『使えねぇクズだな』

クズ……。
それまで言われっぱなしだった私の中で何かがプツンと切れた。包丁を置き、腕組みをして矢部さんに向き直る。

じゃあ、あなたは菱沼で私がやっていた仕事ができるの? 世の中の様々な仕事それぞれに究める領域は違う。そもそも初対面でクズとは何だ。人として最低限の礼儀というものがあるだろう。

『何休んでんの! 唐揚げ肉がもう売場ゼロなんだよ! 今お客さん来てるんだから早く!』

『は、はいっ』

反撃の狼煙は未遂のまま一瞬のうちに吹き飛ばされた。

『大きい! 唐揚げっつってんでしょ、フライドチキンじゃねぇんだよ』
『小さすぎ! 何なのこれ』
『遅い、早く!』

この調子でひたすら怒鳴られ、定時を迎える頃には口をきく気力もなく、汚泥にでもなったように疲れ果てていた。