理想の結婚お断りします~干物女と溺愛男のラブバトル~

袋を開ける鋏を探していると『ご丁寧に鋏なんか使ってられないんだよ!』と怒鳴られた。包丁で開けるようだ。

『ひぃ』

業務用包丁の刀のような長さと恐ろしい切れ味に思わず悲鳴が漏れる。

出だして躓いたものの、作業を始めた私はすぐに安堵した。お肉を一枚ずつパックに入れるなんて幼児でもできる。楽勝じゃないのと鼻で笑った時だった。

『何やってんの! 皮がついてる方を下にすんだよ! 常識でしょうが。まさか今まで買い物したことないとか言わないだろうね、いい歳こいて』

『…………』

まあ図星だ。実家時代はほぼ母任せで、一人暮らしの今は材料すべて洗浄済カット済の宅配献立サービスを利用している。
管理栄養士が作った献立なら安心だし、一人ご飯の材料ロスもない。任せられるものは外部に委ね、いざ必要になれば料理教室にでも通えば……という至極合理的なセオリーがこんな場で綻びるとは。

『早く!』

心の中でごちゃごちゃ理屈をこねながら必死で手を動かす。とりあえずむね肉だけは命令に従おう。

『モタモタしてんじゃないよ!』

とにかく怒鳴る。ガラス越しに見える売場はガラガラなのに、なぜこんなに急かされるのかは謎だ。