理想の結婚お断りします~干物女と溺愛男のラブバトル~

それから作業のあとには靴裏を洗うこと、指輪やネイル、ピアスは禁止であることなどを駆け足で説明された。それを自分がやるという実感がまるでない。

いや、やらなくていいのよ。
どこかのタイミングで〝辞める〟って言っ──

『早く!』

『はいっ』

この口め、なぜ〝はい〟しか言えない?
軍隊のように追いまくられて再び精肉部の部屋に戻る。

『料理やってんならだいたいわかるだろ』

矢部さんの乱暴な声とともに鶏肉がどっさり入った袋が目の前の作業台に音を立てて置かれた。どうやら丸鶏の羽をむしったりするわけではないようだ。ほっとしている暇もなく矢部さんの指示が飛ぶ。

『むね一枚をとりあえず十、包材は二番』

『え?』

 一とか十とか二って?

『二番はこれだよ! 考えりゃわかるでしょ!』

小さな発泡スチロールトレーを投げつけるようにして渡される。むね肉一枚入りを二番という名称のトレーで十パック作れという指示らしい。いや、説明なしでは考えてもわからないと思うのだけど。

『早くして!』