理想の結婚お断りします~干物女と溺愛男のラブバトル~

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その日の午後は悪夢のうちに終わった。

「うう……」

夜、アパートの階段を這うようにして上がる。岩でも担いでいるように身体が重い。脚は棒、肩はガチガチ、腰は一触即発状態だ。ようやく玄関までたどり着くと、床にへたり込んだ。

「ああ……」

呻き声しか出てこない。
恐るべし肉体労働。恐るべし第三世界。たった半日で心も身体もボロボロだ。


あれから私は退職の「た」の字も言わせてもらえぬまま女子更衣室で白い作業着に着替えさせられた。隣で見ていた矢部さんに「けっ、全然胸ねぇな」と言われたことは思い出すまい。

続いて不織布でできた給食帽を被り、マスクを装着。そして究極に不格好な白い靴を履かされる。まずこの服装の段階で私のプライドは粉々に打ち砕かれた。

(これが私……?)

更衣室の出口にある大きな鏡をふと見た私は、バックヤードでうろうろしている白装束の民にすっかり同化している自分に衝撃を受けた。肩で風を切り丸の内を歩いていた私はどこへ。

しかし呑気に衝撃に浸れたのは一瞬だった。

『ほら行くよ、早く!』

貧乏ゆすりをしながら着替えを待っていた矢部さんにまた怒鳴られる。