「めっちゃ格好よくないですか? 他は全員右利きなので名前なし、共用なんですけど、仁科さんのは特注でネーム入れてもらいました!」
「ネーム分は経費上アウトなんだけど、チョチョっとごまかしたんだよな?」
「はいっ」
「格好いいよなー。俺もネーム入れちゃおっかなー」
「駄目っすよ。二回もやったらバレますって」
柳井君と佐藤主任のはしゃいだ会話を聞きながら途方に暮れる。辞めるのに、私しか使えないようなもの、どうするの。
しかしそれ以前に捨ておけない疑問がある。
「あの、なぜ私が左利きだと……?」
「菱沼の人事部さんが事前に教えてくださったんです」
「何だっけ? やたら寒そうな名前だったよなー」
「…………」
せっかく忘れかけていた北条怜二の顔がまた浮かぶ。
十年前に合コンで同席した相手の利き手を覚えているとは恐ろしい記憶力だ。まあ胸の詰め物をポロリする女はそういないけれども。
「ネーム分は経費上アウトなんだけど、チョチョっとごまかしたんだよな?」
「はいっ」
「格好いいよなー。俺もネーム入れちゃおっかなー」
「駄目っすよ。二回もやったらバレますって」
柳井君と佐藤主任のはしゃいだ会話を聞きながら途方に暮れる。辞めるのに、私しか使えないようなもの、どうするの。
しかしそれ以前に捨ておけない疑問がある。
「あの、なぜ私が左利きだと……?」
「菱沼の人事部さんが事前に教えてくださったんです」
「何だっけ? やたら寒そうな名前だったよなー」
「…………」
せっかく忘れかけていた北条怜二の顔がまた浮かぶ。
十年前に合コンで同席した相手の利き手を覚えているとは恐ろしい記憶力だ。まあ胸の詰め物をポロリする女はそういないけれども。
