〝精肉部にはちょっと怖いパートさんがいてね……新人パートさんも社員さんもみんな辞めちゃうんだよ……一週間以上続いた人がいないんだよね……〟
その音の主、三人目の人物が明らかに危険人物であることは、面談時に店長が漏らした不吉なボヤキを思い出すまでもなかった。
身長百五十センチあるかないかだろうか。目尻にカラスの足跡がバリバリに刻まれた婆さんは小柄ながら凄まじい存在感を放っている。
「あの、矢部さんも自己紹介を……」
佐藤主任がへこへこと手を揉み絞りながら挨拶を促した。矢部さんと呼ばれたその婆さんはマスクをむしり取り、投げつけるように言った。
「名札見りゃ名前ぐらい読めるだろ」
ハエ程度なら視線だけで撃ち落とせそうだ。
見た目など糞くらえと言わんばかりに潔く光る銀歯、自己紹介拒否。
私の前に立ちはだかるのは学校カーストの悪ガキたちでもなく、陰湿なエリート女子たちとも違う、いまだかつて戦ったことのない新たなタイプの敵だった。
越えるべき山を前にした時、クライマーはこんな気分になるのだろうか。
その音の主、三人目の人物が明らかに危険人物であることは、面談時に店長が漏らした不吉なボヤキを思い出すまでもなかった。
身長百五十センチあるかないかだろうか。目尻にカラスの足跡がバリバリに刻まれた婆さんは小柄ながら凄まじい存在感を放っている。
「あの、矢部さんも自己紹介を……」
佐藤主任がへこへこと手を揉み絞りながら挨拶を促した。矢部さんと呼ばれたその婆さんはマスクをむしり取り、投げつけるように言った。
「名札見りゃ名前ぐらい読めるだろ」
ハエ程度なら視線だけで撃ち落とせそうだ。
見た目など糞くらえと言わんばかりに潔く光る銀歯、自己紹介拒否。
私の前に立ちはだかるのは学校カーストの悪ガキたちでもなく、陰湿なエリート女子たちとも違う、いまだかつて戦ったことのない新たなタイプの敵だった。
越えるべき山を前にした時、クライマーはこんな気分になるのだろうか。
