茫然と手の甲をつねってみた私とは真逆に、目の前の白装束の男二人は嬉しそうにニコニコしている。二人とも給食帽のようなもので頭をすっぽりと覆っていて、マスクから覗く目しか見えないのだけど。
いったい誰が最初に喋るのやら微妙な沈黙で向き合うこと一分。ようやく一人がマスクを取り、へらへらと笑った。
「ええと……主任の佐藤です。ウェルカムウェルカム、へへへ」
こちらが脱力するような緩い挨拶をした男性は見たところ三十代半ば。茫然としつつ私の頭は冷静に彼を斬って落とした。
ホームページを見ると、早ければ入社四年目で主任に昇格した社員もいるようだ。三十代半ばの年齢で主任止まりということから察するに、この人物は頭打ちなのだろう。つまりそんな人材が管理を任されている精肉部もこの弱小店の底辺部門ということになる。
底辺中の底辺。
絶望感がいよいよ増したところで、二人目が進み出た。
「僕、柳井純平といいます。よろしくお願いします」
彼はマスクを取ってはにかんだ笑顔を見せ、ぺこりとお辞儀をした。
甘く優しい顔立ちで、素直そうな癒し系だ。身長はヒールを履いた私より若干低い。私の背筋が少し曲がる。
「僕は入社五年目で、仁科さんより後輩になります。この店のことしか知らないので、仁科さんから本社のこととか教えてもらうのが楽しみです」
「そうそう、仁科さんはT大出てるんだってよ! すんげぇなぁ。俺、T大の人を拝むの初めてだよ!」
「フン」
佐藤主任の軽い喋りが入った時、地の底から響くような低音で誰かが鼻を鳴らすのが聞こえた。その瞬間、部屋の温度がはっきりと下がった。
いったい誰が最初に喋るのやら微妙な沈黙で向き合うこと一分。ようやく一人がマスクを取り、へらへらと笑った。
「ええと……主任の佐藤です。ウェルカムウェルカム、へへへ」
こちらが脱力するような緩い挨拶をした男性は見たところ三十代半ば。茫然としつつ私の頭は冷静に彼を斬って落とした。
ホームページを見ると、早ければ入社四年目で主任に昇格した社員もいるようだ。三十代半ばの年齢で主任止まりということから察するに、この人物は頭打ちなのだろう。つまりそんな人材が管理を任されている精肉部もこの弱小店の底辺部門ということになる。
底辺中の底辺。
絶望感がいよいよ増したところで、二人目が進み出た。
「僕、柳井純平といいます。よろしくお願いします」
彼はマスクを取ってはにかんだ笑顔を見せ、ぺこりとお辞儀をした。
甘く優しい顔立ちで、素直そうな癒し系だ。身長はヒールを履いた私より若干低い。私の背筋が少し曲がる。
「僕は入社五年目で、仁科さんより後輩になります。この店のことしか知らないので、仁科さんから本社のこととか教えてもらうのが楽しみです」
「そうそう、仁科さんはT大出てるんだってよ! すんげぇなぁ。俺、T大の人を拝むの初めてだよ!」
「フン」
佐藤主任の軽い喋りが入った時、地の底から響くような低音で誰かが鼻を鳴らすのが聞こえた。その瞬間、部屋の温度がはっきりと下がった。
