理想の結婚お断りします~干物女と溺愛男のラブバトル~

だから居住エリアの手がかりを知りたかったのに、話題はすぐに逸れていった。

『そうそう! ブランドビジネス部の梶山茜もタママートに出向らしいよ。久我店って聞いた』

「えっ、そうなの? 私の前に北条課長と面談してたわ」

『彼女も紺子と同じで数か国語堪能だから、もしかしてタママートの輸入事業のてこ入れで人材投入してるのかもよ。左遷って決めつけて落ち込むことないよ』

「そうかなぁ……」

『紺子はフランス語もイタリア語もできるから、ワインのバイヤーとかさせてもらえるんじゃない? あの会社、ワインは現地買い付けでかなり本格的らしいよ』

「ワインのバイヤー……なるほど」

そうか、スーパーにだってそういう職種があるじゃない!
よし、明日からチューハイはやめてワインを買わなくちゃ。

『店名はなんていうんだっけ?』

「かもめ店。謎のネーミングよね。海なし県なのに」

辛辣になるのは過剰な期待を抑えたいから。我ながら本当に面倒くさい人間だ。
美保子はネットで検索したらしく、しばらくして声を上げた。

『あ、ホームページにあった! 綺麗な店じゃない? 画像が小さくてよく見えないけど』

「まあ、綺麗には見えるよね」

控えめに褒めてみる。
この二週間、行きたくないと叫びつつどこか期待を抱いて何度も開いて見たタママートのホームページ。
かもめ店はクリーム色の外壁に紺色のサンシェードが映える、思ったよりお洒落な外観だ。下見も引っ越しも慌ただしくて、まだ店舗は見ていない。このさびれた町にこんな店があるなんて信じられないけれど、もしかするとフラッグシップショップなのかもしれない。

私のチャンスは失われていないのかもしれない──。