理想の結婚お断りします~干物女と溺愛男のラブバトル~

小次郎と出会ったのは昨年の春だった。結婚結婚と口やかましくなった親から逃れるため、一人暮らしを始めたのがきっかけだ。

当初は猫とかウサギとか、可愛らしい小動物を考えていた。抱っこしたら気持ちが良さそうな、フワフワしたもの。亀なんて頭の隅にもなかった。

猫コーナーは人の肩越しに覗き込まなければケージが見えないぐらい大盛況だった。そんな人だかりの脇に古ぼけた青いたらいが床に無造作に置かれていた。誰にも見向きもされず、時折客に蹴られているそのたらいをふと覗く。

たらいには藁が敷いてあり、小さな亀が一匹、ごそごそと短い手足を動かしていた。〝勝ち組〟の猫ケージの人だかりの横で、一人ぼっちで暮らす亀。

背中を向けても後ろ髪を引かれてしまい、立ち去れない。そんな自分としばらく闘った。

(亀なんて友達に笑われる)

でもこのまま売れなかったらこの子はどうなるの?
小さなたらいに一人きり、誰が幸せにしてくれるの?

思いきって屈み込み、恐る恐る小さな亀を手のひらに乗せる。

『……こんにちは』

ぎこちなく挨拶すると、驚いたことに亀は黒曜石のようなつぶらな瞳で私を見上げ、小さな口を開けて嬉しそうに笑った。本当に笑ったのだ。

『可愛い……』

人生初、胸がキュンと音を立てた。
その日からその小さな亀は私の無二の相棒になったのだった。