「お疲れ様です」
誰の靴、誰の声かはもうわかっている。だって心のどこかでずっと待ち続けていたから。
顔を上げるまで、しばらく時間がかかった。何を言うのか思いつかなかったのと、洟がみっともないことになっていたから。そして、顔を上げたら彼が幻のように消えてしまいそうな気がしたから。
スン、と洟をすすって顔を上げる。
「…………」
私を見下ろす濃い灰色の目をおずおずと見つめ返す。
そこに立っていたのは、コートに身を包んだ北条怜二だった。
それでもまだ私は幻かもしれないと半信半疑で、声を出すのが怖かった。彼がなんのために来たのかもわからなかった。
「……本物?」
用心深く尋ねると、彼が吹き出した。
「偽物でもいたんですか」
黙って首を横に振る。
だって、ずっと寂しかったんだから。あの夜に何か粗相をしたんじゃないかって、背中を向けられた理由をずっと考えてたんだから。好きになってもらえないとわかっていても、それでもあなたのことを考えずにいられられなかったんだから。
訊きたいこと、でも訊けないこと、言いたいこと、でも言えないことがたくさんある。
誰の靴、誰の声かはもうわかっている。だって心のどこかでずっと待ち続けていたから。
顔を上げるまで、しばらく時間がかかった。何を言うのか思いつかなかったのと、洟がみっともないことになっていたから。そして、顔を上げたら彼が幻のように消えてしまいそうな気がしたから。
スン、と洟をすすって顔を上げる。
「…………」
私を見下ろす濃い灰色の目をおずおずと見つめ返す。
そこに立っていたのは、コートに身を包んだ北条怜二だった。
それでもまだ私は幻かもしれないと半信半疑で、声を出すのが怖かった。彼がなんのために来たのかもわからなかった。
「……本物?」
用心深く尋ねると、彼が吹き出した。
「偽物でもいたんですか」
黙って首を横に振る。
だって、ずっと寂しかったんだから。あの夜に何か粗相をしたんじゃないかって、背中を向けられた理由をずっと考えてたんだから。好きになってもらえないとわかっていても、それでもあなたのことを考えずにいられられなかったんだから。
訊きたいこと、でも訊けないこと、言いたいこと、でも言えないことがたくさんある。
