理想の結婚お断りします~干物女と溺愛男のラブバトル~

今回のかもめ店が存続で、私が菱沼に帰る道はさらに遠のいた。北条怜二に会う機会は、今後ほとんどないだろう。

「これで良かったんだよね……」

ポツンと一つ残されている自分のコートを羽織り、首元にマフラーを何重にも巻き付ける。埼玉辺境の冬は風が強くて意外と寒さが厳しいのだ。

「さあ、帰ろ」

バッグを抱え、薄暗い廊下を歩き始めた。店内にはまだ店長と副店長が残っていて、ところどころ電灯が点いている。
通用口を出ると凍えるような風が吹きつけてきた。

「お餅もチューハイも、買う暇なかったなぁ……」

年越し蕎麦も、蕎麦に乗せる海老天も。仕事に必死になりすぎて、自分の年越し支度をすっかり忘れていた。

「いつも通りでいっか」

お正月は三日から出勤なので、年末年始は実家には帰らないことにした。まあ、親がうるさいこともある。

初めて一人で過ごす大晦日。
この土地で初めて迎えるお正月。
無性に寂しくなり、洟をすする。

これは寒さのせいだ。
私は寂しいからって泣くような弱虫じゃないんだからね。

それでも私はまたあの濃い灰色の目を思い浮かべてしまう。
私、この半年でいろんな壁を壊したよ。ここはそのきっかけをくれた場所。だからここを守れたこと、あなたに一番、知ってほしかった。


俯いて歩いていた私の足が、その時止まった。

防寒第一のもこもこブーツのつま先の前にあるのは、埼玉辺境では見ることのない、綺麗な男性の靴。