理想の結婚お断りします~干物女と溺愛男のラブバトル~

鼻の奥がツンとしてきた時、膝の上のバッグがかすかに揺れた。目尻を拭いて覗き込むと、中ではタオルにくるまれた相棒がまだすやすやと眠っていた。撫でているとささくれ立った心が癒される。

「もう少しで着くからね」

目的の駅名のアナウンスで電車を降り、休耕田だらけの町を歩くこと五分。駅から近いことだけが取り柄の古ぼけたアパートの二階、一DK。それが私の新しい住まいだ。

「小次郎、起きた? もう出てきていいよ」

引っ越しトラックとの移動競争に勝利した私はわずかばかりの家財道具の荷受けが終わると、ベランダに避難させていたトートバッグからタオルの包みを取り出して床に置いた。

中からもぞもぞと這い出てきたのは灰色の甲羅を背負った相棒、リクガメの小次郎だ。