次の会話ネタを必死で考えていると、休憩室のドアが派手な音と共に開き、森田さんが飛び込んできた。
「仁科ちゃん仁科ちゃん! 載ってるよぉ!」
森田さんの手には社内誌が握られている。
「あれっ、社内誌もう出てんの? うち貰ってねーんだけど」
「矢部ちゃんのとこ、また主任がうっかりしてんだよ」
そう、佐藤主任は配布物をきっちり配ったことがない。
毎月義務付けられているスツール検査──いわゆる検便だって、提出期日の三日前に慌てて配ったりする。『焦るとかえって出ないっス』と柳井君が文句を言って、全員で笑ったことがあった。
「それより仁科ちゃん、小次郎君が載ってるんだよ」
「ええ⁉ 連絡がなかったんで不採用だと思ってました」
「まーた主任が伝えるの忘れたんでねか?」
タママート社内誌にはペット自慢コーナーがあって、森田さんにそそのかされて一か月ほど前に画像と紹介文を添えて応募したのだ。猫とか犬ばかりで、亀は採用にならないかなと思っていたのに。
「ちょっと見せてください……うわぁ、大きく載ってる!」
「小次郎ちゃん、可愛く撮れてるねぇ」
「えへへ」
森田さんと私の会話を聞き、矢部さんも社内誌を覗き込んでくる。
「何これ、亀?」
「そうです」
矢部さんの反応を内心ドキドキしながら窺っていると、矢部さんは手提げから老眼鏡を取り出した。それを装着してつらつらと写真を眺めた矢部さんは、銀歯を光らせてニタアと笑った。
「超可愛いじゃねぇか」
何だろう、ものすごく嬉しい。わざわざ老眼鏡をかけて見てくれたこととか、些細なことまで嬉しい。
矢部さんに褒めてもらえて喜んでいる私は、なんだかんだで矢部さんが好きなのだと思う。北条怜二の背中を見送って以来ずっと雨が降っていた心に一瞬だけ晴れ間が見えたような、そんな気分になった。
しかしそれは午後になると泡沫のごとく消え去った。また低気圧に戻った矢部さんの八つ当たりにより、精肉部はいつもの戦争状態に戻ったのだった。
「仁科ちゃん仁科ちゃん! 載ってるよぉ!」
森田さんの手には社内誌が握られている。
「あれっ、社内誌もう出てんの? うち貰ってねーんだけど」
「矢部ちゃんのとこ、また主任がうっかりしてんだよ」
そう、佐藤主任は配布物をきっちり配ったことがない。
毎月義務付けられているスツール検査──いわゆる検便だって、提出期日の三日前に慌てて配ったりする。『焦るとかえって出ないっス』と柳井君が文句を言って、全員で笑ったことがあった。
「それより仁科ちゃん、小次郎君が載ってるんだよ」
「ええ⁉ 連絡がなかったんで不採用だと思ってました」
「まーた主任が伝えるの忘れたんでねか?」
タママート社内誌にはペット自慢コーナーがあって、森田さんにそそのかされて一か月ほど前に画像と紹介文を添えて応募したのだ。猫とか犬ばかりで、亀は採用にならないかなと思っていたのに。
「ちょっと見せてください……うわぁ、大きく載ってる!」
「小次郎ちゃん、可愛く撮れてるねぇ」
「えへへ」
森田さんと私の会話を聞き、矢部さんも社内誌を覗き込んでくる。
「何これ、亀?」
「そうです」
矢部さんの反応を内心ドキドキしながら窺っていると、矢部さんは手提げから老眼鏡を取り出した。それを装着してつらつらと写真を眺めた矢部さんは、銀歯を光らせてニタアと笑った。
「超可愛いじゃねぇか」
何だろう、ものすごく嬉しい。わざわざ老眼鏡をかけて見てくれたこととか、些細なことまで嬉しい。
矢部さんに褒めてもらえて喜んでいる私は、なんだかんだで矢部さんが好きなのだと思う。北条怜二の背中を見送って以来ずっと雨が降っていた心に一瞬だけ晴れ間が見えたような、そんな気分になった。
しかしそれは午後になると泡沫のごとく消え去った。また低気圧に戻った矢部さんの八つ当たりにより、精肉部はいつもの戦争状態に戻ったのだった。
