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「へ、へっくしょい! ……はぁ」

矢部さんが隣でズズ、と洟をすすっている。
今日は運悪く矢部さんと昼休憩が一緒になってしまった。矢部さんは今月に入ってかららずっと風邪をひいていて、隣から漂ってくる不機嫌オーラはいつもに増して半端ない。

「あーくしゃみが止まんねぇ」

人目も憚らず再び大きなくしゃみをかました矢部さんがぼやいている。
こんな人でもン十年前に恋愛して、旦那様をゲットして子供も産んで家庭を築いているわけで。私ってこの人より女子力がないんだなぁとしみじみ我が身を憐れみたくなる。

ここに来て半年以上が経つけれど、矢部さんと打ち解けるには程遠く、たまにこうして昼休憩が重なってしまうと気まずくて休むどころではない。今日の社食メニューは大好きなチキン南蛮なのに、まるで砂を噛んでいるようだ。

「カ、カイロの予備ありますよ。要りますか?」

「要らねぇ。もう貼りまくってる」

あまりに会話がないので友好作戦に出てみたのに、秒速で断られた。

「…………」

また沈黙。咀嚼の音すら怒られそうな昼休憩はなかなか辛い。