自分を責めるのに疲れると、昔のように彼を嫌おうとしてこき下ろそうと試みた。しかし悔しいことに攻めどころが見つからない。
普通、顔があれだけ良ければ、例えば髪がチリチリだとか声がアヒルみたいだとか脚が短いとか、どこかに弱点があるものだろう。なのに彼は涼しい顔ですべての理想形をコンプリートしている。おまけに人事部なんて特権階級について全能神のように下々を飛ばしまくるのだから。
「コンプレックスを知らないって、人として不完全だと思う! ねぇ、小次郎」
そんなことをうそぶきつつ、私は知っている。私のコンプレックスを一番ヒリヒリさせる彼こそ、私を理解してコンプレックスごと包んでくれる唯一の人だったこと。
「駄目……泣いちゃ駄目だ」
タオルで目を拭っても拭っても、カブの葉を食べる小次郎がすぐにぼやけて見えなくなる。
ピピ、という電子音で体温計を取り出してみると三十六度五分。もう一度計ったらさらに二分下がった。
食事が喉を通らないほど心は弱っているのに、身体はびくともしてくれない。きっと神様はまったくモテない私が男に頼らず生きていけるよう、戦車のように強靭な身体を与えてくれたのだろう。
「二人で生きていこうね、小次郎」
ムシャムシャ、ポリポリ、それが小次郎の返事だ。
冬の夜、テーブルに一匹を乗せた一人ぼっちのコタツは去年よりずっと寂しい。だって私は恋を知ってしまったから。
「小次郎がご飯を食べるところ、一緒に見てもらいたかったなぁ……」
テーブルの上にまた一粒、かすれた笑いと共に雫がポトンと音を立てた。
普通、顔があれだけ良ければ、例えば髪がチリチリだとか声がアヒルみたいだとか脚が短いとか、どこかに弱点があるものだろう。なのに彼は涼しい顔ですべての理想形をコンプリートしている。おまけに人事部なんて特権階級について全能神のように下々を飛ばしまくるのだから。
「コンプレックスを知らないって、人として不完全だと思う! ねぇ、小次郎」
そんなことをうそぶきつつ、私は知っている。私のコンプレックスを一番ヒリヒリさせる彼こそ、私を理解してコンプレックスごと包んでくれる唯一の人だったこと。
「駄目……泣いちゃ駄目だ」
タオルで目を拭っても拭っても、カブの葉を食べる小次郎がすぐにぼやけて見えなくなる。
ピピ、という電子音で体温計を取り出してみると三十六度五分。もう一度計ったらさらに二分下がった。
食事が喉を通らないほど心は弱っているのに、身体はびくともしてくれない。きっと神様はまったくモテない私が男に頼らず生きていけるよう、戦車のように強靭な身体を与えてくれたのだろう。
「二人で生きていこうね、小次郎」
ムシャムシャ、ポリポリ、それが小次郎の返事だ。
冬の夜、テーブルに一匹を乗せた一人ぼっちのコタツは去年よりずっと寂しい。だって私は恋を知ってしまったから。
「小次郎がご飯を食べるところ、一緒に見てもらいたかったなぁ……」
テーブルの上にまた一粒、かすれた笑いと共に雫がポトンと音を立てた。
