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十二月に入ると朝の冷え込みは厳しく日はすっかり短くなった。
午前六時に職場入りするこの仕事は、冬場になると夜明け前の凍てつくような寒さの中で作業が始まる。寒さは身に染みるのだけど、真っ暗なうちからエンジン全開で動き回る従業員たちの力強さの中にいるとアドレナリンが湧いてくる。それはひっそりと迎えた失恋の寂しさを少しだけ紛らわしてくれた。

でも精肉部の面々は風邪をひいてばかりだ。品質保持のため室温を上げられず、しかも冷蔵室や冷凍室で作業することも多いので血行不良になり、身体への負担がとても重い。そんな中、私だけは悲しいぐらい風邪をひかなかった。

夜、小次郎にご飯をあげながらチューハイを飲んでいる時、何だか熱っぽい気がして体温計を出してくる。最近の私は熱を計ってばかりだ。だってこれが彼との唯一の思い出の品だから。

計りながら考える。

倒れたら、また看病に来てくれるかな。
ちゃんと薬を飲めっていうお説教、もう一度聞きたいな。
もしかしてあの夜、私何か粗相をしたのかな。
口移しまでしてくれたのに、私は嫌われるようなことをしたのかな……。

自覚とほぼ同時に駆け足で失恋がやってきたから、ドキドキもキュンキュンもすべてすっ飛ばし、美味しいところがまるでない恋煩いだ。