翌朝、目覚めた私はしばらくベッドの中でぼんやりと天井を眺めていた。
昨夜は彼の車で帰ってきて、それから……?
曖昧な記憶を整理していくうち、だんだんと血の気が引いていく。会場では大暴走してカミングアウトして彼に救出してもらい、そのあと熱を出して、夜間診療所に連れて行ってもらって……。
私の記憶が正しければ、ものすごく……というレベルではない域で面倒をかけた気がする。
「ああ……」
二十八年間、熱を出したことなど記憶にないぐらいなのに、どうしてこう、彼に限って星回りが悪いのだろう?
さらに都合の悪いことを思いだしそうな気がしてきたので考えるのをやめ、のっそりと起き上がる。
ベッドの脇にはスポーツドリンクのペットボトル、真新しい体温計とお薬とメモ。彼らしく、やたらに口やかましいメモだった。
『起きたらまずなにかお腹に入れて、必ず薬を飲んでください。それから体温を測ること。あとで確認を入れますから』
(すごい達筆だ……)
書家にでもなれそうな筆致を感心して眺めたあと、私は自分の格好を見下ろして固まった。
「私、どうやって着替えたの……?」
記憶している服装と違い、ルームウェア……という名前で呼んでいいのか、なぜか愛用のジャージを着用していた。大学時代の体育授業用に買ったものだから十年選手だ。これの着心地がすこぶる良い。
「十年か……」
十年と言えばあの合コンの頃からこれを着ていることになる。自分史みたいなジャージだなと改めて感慨に耽った。