「あはは……」

「何笑ってんですか。笑ってないで、早く起き上がって」

「大丈夫です……」

「薬で食道が炎症を起こすこともあるんですよ。それに水分補給もしないと脱水になりますから」

彼の声は低くて、叱られているのにそっと撫でられているみたいで、とても心地いい。ふわふわと夢うつつを漂っていると、大きな溜息が聞こえた。

「無理やり流し込みますよ。いいですね?」

「うん」

「……ちゃんと意味わかってるんですか」

「うん……」

もう演技は終わったんだから「うん」じゃなくて「はい」なのかな。
そう考えていると、いきなり鼻をつままれた。息ができなくて開けた口を温かな感触が柔らかく塞ぐ。

「んぐ……」

口内に水が流れ込んできて、反射的に動いた喉がごくりと音を立てる。
私の耳に触れているのは、彼の前髪……?

「もう一口ですよ」

なだめるような声と共にもう一回。
唇が自由になり、足りなかった酸素を求めて目を閉じたまま大きく息をする。でも渇いていた喉が潤い、ああ私って水分が足りていなかったんだなと考えた。

「美味しかった……」

目を閉じたままゆるりと微笑んでそう呟くと、盛大な溜息がまた聞こえた。

「まったく……」

それからそっと優しく頭を撫でられた気がして、心地よさの中で昏々と眠りに落ちていく。

「おやすみ」

駄目、寝たら彼が帰っちゃう。

「帰らないで……」

目が覚めた時もここにいてくれたら嬉しいな。
そうしたら小次郎を紹介してあげる。小次郎がご飯を食べるの、見せてあげてもいいよ。すごく可愛いんだから。

そうだ……小次郎にご飯あげないと。


そう考えたのを最後に、意識が途切れた。