「会社も休んだことがないですよね。明日のシフトは? 出勤なら僕から連絡を入れますが」

「あ……明日は……お休み取ってます……」

ああ、駄目だ。もう瞼がくっついて舌が回らない。

「就寝前の薬があるので、それを飲んでから寝てください」

「置いといてください……。辛くなったら飲むので……」

そういえば小次郎はどうしているだろう? 何とか瞼をこじ開けて部屋の隅を見ると、カラーボックスの中のタオルがこんもり膨らんでいる。きっと見知らぬ人間がいることに驚いて隠れているのだろう。

ごめんね、小次郎。彼が帰ったらご飯をあげるからね。森田さんにもらったカブの葉がたくさんあるんだよ……。

「そう言って飲まずに治そうとするんでしょうが、三十九度も熱があるんですよ。今すぐ飲んでください」

「薬、嫌い……」

「子供みたいなことを言わずに、ほら」

顎を掴まれ、彼の指が唇に触れたかと思うと隙間から小さな錠剤が押し込まれた。

「苦っ……」

表面の甘味の下から舌が痺れるような苦味が溶け出てくる。

「……まずい味が喉に張り付いてる」

「当たり前ですよ。水なしなんだから。ほら、起き上がって水を飲んでください」

説教口調が面白くて、朦朧としながらふふ、と笑った。

笑ったついでに美保子から聞いた数日前の彼のエピソードまでなぜか思い出してしまい、余計に笑いが止まらなくなった。

先週の月曜日、つまりガーリックライスを食べた翌日、北条怜二が珍しくマスク姿だったので風邪をひいたのかと社内中の女子が心配したというのだ。実際はニンニクの匂いが取れなかったからに違いない。