そうこうするうちにアパートに着いてしまい、大切な時間は終わりを迎えようとしていた。車を降りて一晩寝たら、もう彼のことは諦めよう。ドラマなんて比じゃないドキドキは、いつか風化するまで胸にしまっておこう。

ところがそうはいかなかった。アパート前に車を停めた彼は何を思ったか車内のライトを付け、こちらを向いてじっと私の顔を見つめた。

「顔が真っ赤です」

まさか……という期待で一瞬高鳴った胸は、彼のこの台詞で一気に萎んだ。あの合コンの時と変わっていない自分のお花畑な思考回路が恥ずかしい。

「いえ、だからこれはアルコールですよ」

「あれから二時間近く経ってますよ。……ちょっと失礼」

いきなり彼が私の額に手を当てたので、余計に顔が熱くなる。

「すごい熱です」

「え? いや、まあ寝たら治りますから」

ただの恋煩いだとは口が裂けても言えない。

「部屋に体温計はありますか? 念のため計って病院に行きましょう」

「あ、体温計は持ってないんです」

「…………」

「だって計っても下がるわけじゃないし、気合で治るかなって……」

呆れ返ったような視線を受けながら喋り続けていると、彼が溜息をついた。

「なるほど。薬を飲まずに傷が化膿したのはそういう非科学療法のせいですね」

「……すみません」

彼はスマホを取り出し、何かを手早く検索した。

「夜間診療所が近くにあります。行きましょう」

「えええ? そこまでしていただくわけには!」

でも大声を出したせいで頭がズキンと痛み、少し顔が歪む。そんな私を見て彼は無言で車を発進させた。