お開きになり会場を出る頃にはもうすっかり日は落ちていた。私にとって今では懐かしいものとなった東京の煌びやかな夜景が車のウインドウを飾っている。
車中でようやく演技から解放された私は小さくなって謝った。
「あの……ごめんなさい」
「何がですか?」
「せっかく嘘を繕ってくださったのに、カミングアウトしちゃって……」
「立派でしたよ」
彼の横顔をネオンが照らし、また暗くなる。表情はわからないけれど、もう演技中ではない、普段の彼の口調だ、
「とても立派でした」
素っ気ないのに穏やかに聞こえ、私は肩の力を抜いた。彼独特の言葉を省略しながら二度重ねる言い方が今は鎮静剤のように心に染みる。
「僕が邪魔してしまいましたけどね」
「ごめんなさい」
「謝ることではないですよ。やっぱりあなたらしいなと思いました」
私らしいって?
しばらくぼんやり考えてから、もう「紺子」って呼んでもらえないんだなと気づいて悲しくなった。