急に鳴りを潜めた友人たちの前を通り過ぎ、彼は私の手を取って彼女たちににっこり笑いかけた。

「僕にとって最高に綺麗な手です」

笑顔なのに、淡麗な目が普段に増して冷ややかだ。

「僕も皆さんが仰るところのブルーカラー企業に勤めています。菱沼ホールディングスは食品加工業から興った成金ですから」

そうか、だから食料カンパニーから役員が多く出てるんだ。
単純に納得したあと、彼がかなり早くからこの会話を聴いていたこと、そしてこの状況を見かねて救出してくれたということに思い至った。

きっと彼は呆れているだろう。自己嫌悪に陥った私は彼に手を取られたまま、叱られるのを待つ子供のような気分で突っ立っていた。

「飲みすぎたみたいだね。早めに帰ろう」

凍り付いて身動きが取れなくなっている友人たちの視線の中、私の顔を覗き込んだ彼がまだ演技中の顔で言った。