料理はデザートに移り、そろそろお開きの時間が近くなってきた。普段はチューハイ一缶飲むだけでほろ酔いになるのに、慣れないワインを飲んだせいか、顔の火照りがひどくなってきた。

「ちょっとパウダールームに」

彼に一声かけ、ポーチを持ってパウダールームに向かった。
半個室のように仕切られたブースでようやく一人になり、緊張を解いて大きな溜息を吐く。頬を少しパウダーで押さえたけれど赤みはあまりごまかせない。

「そんなに飲んだっけ……」

顔だけでなく身体も熱く、頭も痛い。昨夜は緊張で眠れなかったせいもあるだろう。

彼を好きだと自覚してからのこの一週間は食欲もなく、眠りも浅かった。
大昔の失恋以来ようやく訪れた二度目の恋はとんでもなく身の程知らずの相手で、演技が終われば忘れなければいけないのだから。
切なくなり目をしばたたいた時だった。

「正直ちょっと笑っちゃったわよね。あんまり自慢するからどれだけ凄いのかと思ったら……ねぇ?」

「うん、思った」

くすくす笑いと共に何やら不穏な会話と足音がパウダールームに入ってきた。昔からの癖で、自分のことかと身体が硬くなる。