「とても印象的で、忘れられなかったんですよ」

物は言いようで、まあ嘘ではない。
女性陣は〝この極上男がなぜ紺子を?〟と露骨に表情に出していたけれど、男性は素直に話に乗ってくれる。

「それで菱沼で再会したんですね。運命だなぁ」

「そうです。でもイエスの返事をもらうまでにかなり時間がかかりました。最後は脅迫みたいなもので」

聞いている面々はまさかこれが鶏団子試験の話だとは思わないだろう。

「紺子のどんなところに惹かれたんですか?」

「それは今夜、本人だけに言います」

「うっ」

ハイペースでワインを飲んでいた私はすんでのところで噎せそうになり、慌ててグラスを置いて口を押えた。彼が笑いながら私の背中を軽く叩く。

「ほら、嫌がるんですよ。……大丈夫?」

ハンバーグ店では噎せても無視だったくせに、まるで別人だ。
会食中ずっとこの調子で、彼はこんな茶番でもそれなりに楽しんでいるようだった。