「えっ……紺子⁉」

受付役の友人と、その隣に並んで立っていた新婦の汐里がこちらを見て目を丸くしている。まさか、という顔だ。

いかにも友人の前だから控えたといった風情で彼の手が私を名残惜し気に解放する。そういう細かい仕草で説得力を持たせる演技が即興でできるのだから、食えない男だなと思う。私には到底敵わない人なのだ。

「汐里、おめでとう! すごく綺麗よ」

お祝いの言葉をかけたのに汐里は北条怜二をガン見したままだ。
新郎はどこへ行ったのかと周囲を見回すと、少し離れたところで胸に花をつけたタキシード姿の男性が友人に囲まれ派手に騒いでいるのが見えた。
隣では北条怜二が汐里にお祝いを述べている。

「菱沼ホールディングスの北条と申します。ご結婚おめでとうございます」

「あの、紺子と……?」

返礼も忘れて汐里が尋ねると、彼はにっこり微笑んで再び私の手を取った。

「はい。お二人に続けるよう、僕も紺子を説得できればいいのですが」

彼がしれっと大嘘をついたので吹き出しそうになった。
きっと彼はこの先の私のお粗末な演技を見越して、彼の方が熱を上げていると印象づけているのだろう。

それともう一つ──この演技の後始末を私がつけやすいように伏線を張っているのだ。彼は結婚を望んでいたのに私は望まなかったと、私の体面を保てるように。
即座に対応できる彼を頼もしく思うと同時に、その冷静さがやっぱり切ない。