食事をした夜に彼を好きだと自覚した私はこの一週間で心の整理をつけた。

〝事実と異なるのは、僕たちが恋愛関係にないことだけです〟

この話が持ち上がった時、彼ははっきりこう言った。だから絶対に私の気持ちは隠し通そう、と。あれだけ女性を断りまくる人が私を好きになる可能性は一パーセントもないのだから。

「僕は紺子と呼びますので」

「は、はい」

「はいじゃなくて」

「……うん」

ほら、これだもの。
ドキドキでして切なくなるのは私だけ。悲しくなるぐらい、彼にとって私との演技なんて何でもないことなんだから。

駐車場からレストランの本館に入ると、ロビーはすでに招待客で混み始めていた。

「もう少し僕にくっついてください」

「く……くっついてます」

「敬語になってますよ」

そう言うと彼はいきなり手を繋いできた。

「表情が硬すぎるので。受付に進むまでの間なので我慢してください」

初めて触れた彼の手に息が止まりそうになる。それほんのり温かくて、こうして一つ一つ彼のことを知ってしまったら、そのあと余計に忘れられなくなる予感がして苦しかった。

でも受付のカウンターまで進む間、気づけば命綱のように彼の手を握り締めていた。幸いなことに手汗をかいたりみっともないことにはならず、逆に手荒れで少しかさついているのが恥ずかしかった。