「基本情報を訊き忘れてました。お誕生日は?」
「二月十四日です」
「バレンタインなんですね」
女嫌いの彼にとっては迷惑なイベントだろう。
ちなみに私の誕生日は三月十四日、ホワイトデーだ。でもバレンタインを含め、私に甘酸っぱい思い出は一つもない。
道路の先に馴染みのあるネオンが見えてきた。もうすぐこの時間が終わってしまうのだろう。急に落ち着かなくなり、言うことを探した私は、遠い過去にしまっていたしょっぱい思い出を口にした。
「私がT大を目指したきっかけは、バレンタインなんです」
隣でハンドルを握る彼がわずかに反応した。
自慢できるような美しい思い出じゃない。でも今、あれはあれでよかったのだと懐かしく感じた。あの出来事がなかったら今の私はいないし、菱沼に入社して、こうして北条怜二を会話することもなかっただろう。
「小学生の時、クラスの人気者の男の子に片思いしてました。カースト底辺の私はただ見ているだけでよかったんです。でもバレンタインでみんなが盛り上がってるのを見て、私もあげたいなと思ってこっそり机の中に入れたんです。お小遣いで買ったチョコ。選ぶのがとても楽しかった」
彼はただ黙って聞いている。
この話を誰かにするのは初めてだ。どこにでも転がっている、幼くて、ごくありふれた失恋話。自分の内にしまっておけばいのに、どうして私は苦手だったこの人に話しているのだろう。
「二月十四日です」
「バレンタインなんですね」
女嫌いの彼にとっては迷惑なイベントだろう。
ちなみに私の誕生日は三月十四日、ホワイトデーだ。でもバレンタインを含め、私に甘酸っぱい思い出は一つもない。
道路の先に馴染みのあるネオンが見えてきた。もうすぐこの時間が終わってしまうのだろう。急に落ち着かなくなり、言うことを探した私は、遠い過去にしまっていたしょっぱい思い出を口にした。
「私がT大を目指したきっかけは、バレンタインなんです」
隣でハンドルを握る彼がわずかに反応した。
自慢できるような美しい思い出じゃない。でも今、あれはあれでよかったのだと懐かしく感じた。あの出来事がなかったら今の私はいないし、菱沼に入社して、こうして北条怜二を会話することもなかっただろう。
「小学生の時、クラスの人気者の男の子に片思いしてました。カースト底辺の私はただ見ているだけでよかったんです。でもバレンタインでみんなが盛り上がってるのを見て、私もあげたいなと思ってこっそり机の中に入れたんです。お小遣いで買ったチョコ。選ぶのがとても楽しかった」
彼はただ黙って聞いている。
この話を誰かにするのは初めてだ。どこにでも転がっている、幼くて、ごくありふれた失恋話。自分の内にしまっておけばいのに、どうして私は苦手だったこの人に話しているのだろう。