そこで私ははっとした。彼は菱沼の女性社員を断り倒しているけれど、外界に女性はたくさんいる。だから彼は来る者全員拒否なのだろうか？　この演技は誰かに迷惑をかけてしまうのだろうか？

「あの、今お付き合いしている方は？」

訊いた途端に後悔した。彼がどこかの誰かと本当の関係にあるのだとしたら……。それを聞くのがなぜ怖いのだろう？

ところが彼はスープを飲みながら当たり前のように答えた。

「あなたです」

その瞬間、私の頭のヒューズが飛んだ。
恋愛ドラマにこんな告白パターンはなかった。でもこれがいわゆる男女の機微ってものなのか？
恋愛の流儀上どう答えるべきなのか、ひっくり返った頭で必死に考える。

「あの、私たち、つ、付き合っ……」

彼は顔を上げ、今さら何だという真顔で私を見た。

「そういう設定でしょう」

「そ、そうでしたね、あはは！」

くそう……。
彼独特の語順と間合いの取り方には今まで散々やられてきたのに。

遍歴は不明、恋人の存在も不明。結局、彼が言う気のないことはうまいことはぐらかされ面白がられているのだ。