店の対応は早く、セットのスープとサラダが運ばれてきた。

「食べながら話しますか」

彼はそう言いながら私に箸やカトラリーを取ってくれた。
まだ演技前、人事部課長と一出向社員という関係なのに、例えばドアを開ける時、車に乗り込む時、彼は行動すべて私を女性として優先する。こういうことが自然にできるのは女性とのお付き合いが多かったということ? それとも当たり前のこと? 干物の私にはわからない。

「質問したいことがあれば何なりとどうぞ」

「ご経験は多い方?」

「ブッ」

肩に力が入りすぎて、心の中の疑問がそのまま口から出てしまった。ちょうどスープの一匙目に口をつけていた彼もさすがこれは堪らなかったようだ。

まあ言ってしまったものは仕方がない。
そっちが〝何なりと〟って言ったんだからね。

質問を撤回せず開き直っていると、彼はペーパーナフキンで口元を拭い、平然とした顔に戻って答えた。

「勧められたら誰とでもかと訊かれたら、僕もノーです」

〝ヤれるか〟という下品な表現は抜かれているけれど、どこかで聞いた台詞だ。私が睨むと彼は笑い、軽く付け加えた。

「普通ですよ」

普通ってどのくらい? 三十三歳の男性の実態というものが私にはわからない。でも、少なくとも彼の〝普通〟が世間の普通でないことは確かだ。