水を飲むふりをしながら頭の中で質問を散らかしていると、彼が人事の事務確認でもするかのようにさらりと言った。

「僕と同棲していることにしますか?」

「ブホッ」

「出向したことも埼玉に転居したこともお友達には言っていないんですね?」

「う、はい、む、グフッ」

「前の住所はもう使用していないわけですし、都内住みでないことだけは明かしておいた方が今後あなたもやりやすいのでは?」

悶え苦しむ私に構わず北条怜二は淡々と意見を述べた。生命の危機に瀕しているわけでもない相手に「大丈夫ですか」なんて無駄な質問はしない男なのだ。

「同棲を始めたことにすれば、あなたが埼玉に転居した言い訳にもなるでしょう」

「そ、そうですね」

咳き込みが収まると、彼が取ってくれたペーパーナフキンで口を押えながら答えた。
落ち着こう。あれだけ恋愛ドラマを観たのだから、実体験はなくてもバーチャルで場数は踏んでいる。