「お仕事お疲れ様です」

もう一度声をかけられ、覚悟して顔を上げたのに、北条怜二と目が合うとやっぱり飛び上がってしまった。初めて見る休日のラフな姿はベージュのパンツにネイビーのニットというシンプルな格好なのに、とても洗練されている。

「おおお疲れ様です」

まさに地獄に仏。悔しいけどものすごく嬉しくて、それを見せるまいと思うとかえって上手に喋れない。

「来週でしたね。遅くなってしまい申し訳ありません」

「い、いえ、こちらこそすみません」

「何時に終わりそうですか? このあとご予定がなければ食事しながら相談──」

「いたいた、仁科ちゃーん!」

〝食事〟ワードで私の瞳孔が全開になった時、青果部パートの森田さんがすごい勢いで乱入してきた。定年間近ながらいつも元気は小太りのおばちゃんだ。腕には葉っぱと思しきものをぎゅうぎゅうに詰めたビニール袋を抱えている。

森田さんとは更衣室で顔を合わせるうちに仲良くなり、小次郎のことも知っているので、たまにこうして青果部で出た廃棄野菜を小次郎の餌に分けてくれるようになった。