大型店は派手な成果を上げられるので昇進が早い。こんな地味な小型店で出世欲のない上司の下にいたのでは道が開けないのだ。毎日ニコニコしながら仕事しているけれど、柳井君だって本当はここから出たいだろうなと思う。
すると柳井君がそのままの質問を私に投げてきた。

「仁科さんは本社に帰りたいですか?」

不意を突かれたのでちょっと詰まってから、首を傾げて笑った。

「……どうだろう」

はっきり答えられなかったのは今までのような遠慮ではなく正直な気持ちだった。
以前なら「帰りたい」と心底願っていた。菱沼に帰った方が社会的に成功できることは明らかだ。
でも今の私はいろいろな不満もありながら、「帰りたい」と言おうとすると、後ろ髪を引かれているような気分になってしまう。

「仁科さんは本社所属だから、廃店になれば予定より早く帰れますよ」

「タラレバの話だしね」

そう笑ってごまかした。
何を望むのが正しいのか、自分は何を望んでいるのか。廃店という言葉を前にして、私は自分の変化に戸惑っている。

「柳井君は? 他店に行きたい?」

「……タラレバですもんね」

柳井君も同じように笑った。