「もし廃店になっても僕ら社員は他店に異動になるじゃないですか。でもパートは解雇になるんで、矢部さんはいつもピリピリしてるんです。主任がぬるいから」

「なるほどね」

昼休憩で柳井君から聞いて納得する。

「パートさんだって生活がかかってることは変わりないもんね」

とはいえ矢部さんはお客様にも不機嫌顔で応対するので、度々苦情が寄せられているらしい。同僚へのきつい態度で深刻な人手不足も招いているし、やっぱり店の首を絞めていると思うのだ。

「主任に言えないから私に八つ当たりしてるんだろうなっていうのは思ってた」

「佐藤主任もやる時はやるんですけどねー。滅多にないんだよなぁ」

「でも仕入れの加減は上手いよね。廃棄を出さないし」

呑気トンボの佐藤主任にも取り柄はある。廃棄や材料ロスが致命傷になる小型店にはぴったりの人材なんだなと最近は思うようになった。

「そうなんですけど、佐藤主任は出世欲がないんで売り方も守りですよね。攻めじゃないんですよ」

先に食べ終えた柳井君が今朝配られた社内誌を読み始めた。食い入るように見ているのは商品展開で成功した他店の特集だ。ほとんどが久我店のような大型店で、大企業で花形部門があるように、チェーン店でも格差があるのがわかる。

「……同期が載ってました。もう主任に昇格してます。早えーなぁ!」

私の視線に気づき、それまで硬い表情で読んでいた柳井君は無理したように笑った。