頭を下げながらバックヤードに戻る途中、メモを持って立ち往生しているおじいちゃんが縋るように助けを求めてきた。

「すりゴマってどこかな。家内に頼まれたんだけど、さっぱりわからんもんで……」

お年寄りだけに口頭説明だけで見捨てて行くわけにいかない。農産乾物コーナーに案内し終えて今度こそと思ったのに、通路を曲がった瞬間、主婦と目が合った。明らかに店員を探していて、逃すものかという勢いで突進してくる。

「チラシに載ってた五十八円の納豆、もうないんですか⁉」
「すみません、そこの店員さん!」

折り込みチラシの初日は朝から主婦が押し寄せ、補充してもすぐに棚が空っぽになる。そうすると荷下ろしに従業員の手が取られるので店内が手薄になり、売場に出ると例えは悪いけれどまるでピラニアの群れに投げ込まれたような状態になる。

でもクレームおばさんを含め、数十円の差にプライドをかける主婦たちの熱さが私は結構好きだ。

「まずい……矢部さんに怒られる」

すべてを終えた頃にはかなり時間が経過していて、精肉部に戻るとやはり矢部さんがカンカンになって怒っていた。

「何分かかってんの? あの量の品出しだったらせいぜい五分だよ。アンタが売場に出てから十分以上経ってんだよ!」

あの怪我の直後だけは少し優しくなったものの、それは一瞬だった。今日は虫の居所が特別悪いようで、すごい剣幕だ。
同僚の行動にいちいち時計を見ているなんて驚きだし、そこまで同僚が信じられないのだろうか。売場で遊んでいるとでも思っているのだろうか。

揉めるのもしんどいので口にはしなかったけれど、昼休憩に入るまで私は不発弾のように内心プンプンしていた。