でもすぐに顔を上げた。

「富川チーフの意見だけの一元判断ですか? 恣意の可能性は配慮されないのですか?」

「管理職と非管理職とでは評価システムが異なりますし、富川チーフの是非についてここでは言及しません。人事部はあくまでも仁科さんのキャリアデザインとして多角的に考えています」

私用で接待費を使いまくるばかりの上司に代わって仕事してきたのに。
昨年のマーケティングアワードで特別賞を受賞したのだって、あの上司では取れなかったはずだ。使途不明の経費は突き返せと私が事務に言ったから? 栄誉を手に入れたら扱いにくい駒は用済みなの?

「タママートには僕も出向者のフォローで足を運んでいますが、素晴らしい企業風土を持っています。有意義な現場経験になるはずです」

さっさと話を綺麗にまとめ始めた北条怜二を前に、今一度自分に問いかける。
拒否すれば退職ということになるのだろう。上等じゃないの。
ところが大きく息を吸い込みその二文字を口にしようとした時、北条怜二がトントンと紙を揃えながら軽く笑って言った。

「まあ正直、あなたにはかなり難しい挑戦でしょうね」

何だって……?
あとから思えばここで私はプライドを逆手に取られ、うまいこと乗せられてしまったのだろう。吸い込んだ息は真逆の言葉になって吐き出された。

「努力でこなせない仕事などありません」

左遷なんかで消えてやるものか。大根を叩き売るぐらい朝飯前だ。