小次郎にご飯を食べさせ自分の食事も終えると、私はテレビの前に座った。
夢を見てしまうことが怖くて、ずっと恋愛ドラマを観るのが怖かった。空白の時間が長引けば長引くほど、手を出せなくなっていた。

でも二十八歳、今ならまだ水をかければ干物は生ものに戻れる?

北条怜二の前でもう不様な女でいたくない。演技だと開き直れば、私だって可愛い女になれるかもしれない。そうしたら黒歴史やコンプレックスから卒業できるんじゃないかなって。

「演技のためにね」

有料チャンネルから恋愛ドラマを選びながら、気恥ずかしくて一人で言い訳する。

しかし私に免疫がないせいか、それとも北条怜二を相手に演技することを念頭に置きすぎたせいか、砂を吐くほど甘いシーンに悶絶しまくった。

次回に続くエンドロールが流れ始め、挿入歌がサビに向かって盛り上がる。画面のこちら側では開けたまま飲むのを忘れて結露だらけになったチューハイを片手に干物女が固唾を飲む。

画面の中でヒロインが熱く切なく囁いた。

〝私……あなたが好き〟

「ぐはーっ、無理―っ」

いやいや、告白までは演技に必要ないんだってば。

二十八歳の清らかな干物の夜は色気のない呻き声とともに更けていった。