「私が路上で喚いたりレンタル彼氏に手を出そうとしてるのを見て、何か問題を起こされたら厄介だと思ったみたいよ」

『まあ単に紺子と女子軍団のバトルが面白そうっていうのかもね』

「あ、それはあると思うよ」

北条怜二ならたぶんそれだ。納得しつつ微妙に虚しい。
もし私が海割り女でなかったら、ごく当たり前に〝北条怜二に興味を持たれている説〟も浮上しただろうに。

そこで私は大事なことに気づき、青ざめた。

「そういえば連絡先もらってない……」

からかわれただけ、とか……。

『北条課長なら紺子の人事データを閲覧できるから電話番号ならわかるでしょ』

「あの人、そういうことしないと思う。公私をはっきり分けるよ」

怪我の翌日にくれた電話の発信元は菱沼オフィスの番号だった。私のせいで金曜の仕事が中途になり、休日出勤する羽目になったのかもしれない。
でも手元にスマホはあったはずだ。あの電話は〝僕個人〟ではなく仕事だったんだなと、あの休みの期間にうだうだ考えたものだった。

『まあ引き受けるって言った以上は何とかしてくれるわよ』

美保子は私の不安を軽く受け流し、もっと核心的な問題を指摘してきた。

『それよりさ。紺子、演技できるの?』

「それよ」

そう、今回の最大の壁はそこなのだ。

「私、まずカップルってものがわからないの。デートって何をしてるのかとか」

二人で何をどんな風に喋って、いちゃつく時はどんな感じなのか。
あ、そこまでは必要ないのか。