『まさか本物?』

「最初に言ったでしょ、代役だって」

『あ、そうか。じゃあ誰が引き受けてくれたの?』

彼の名前を声に出そうとすると、なぜか妙に緊張した。

「実はね、北条課長が引き受けてくれたの」

数秒の間のあと、電話の向こうで大爆笑が聞こえた。なかなか止まないので仕方なく待っていると、やっと美保子が電話に復帰した。

『紺子、そんな冗談が言えるなんて余裕だねぇ。いい代役が見つかったんだ?』

「冗談じゃないって。本当に北条課長よ」

『どこの北条課長?』

「菱沼の人事部」

『…………』

「いや真面目な話」

『…………』

まあ信じられないのはわかる。私だっていまだに整理できていないのだから。

『いったいどうしてそんなことになったの? だって会う機会もないのに。ていうか、あの首斬り人によくそんなこと頼んだね!』

「頼んだわけじゃないのよ。まあ成り行きというか取引?」

そこで私はあの丸の内路上事件からTOEIC試験会場で顔を合わせたことまでを説明した。

『信じられない! 誰がどう見ても面倒臭い案件なのに』

「そうなのよ」

美保子の正直な感想に大きく同意しながら若干へこむ。
私の恋人役など面倒臭い、まあその通りだ。