今年は例年より早く、九月の末から鶏団子の販売が始まった。それは「合格して菱沼の石頭に吠え面をかかせてやる」と矢部さんが息巻いたからだ。

不合格になれば「菱沼の石頭」はこの先もかもめ店に手を焼くことになるわけで、その方が彼にダメージを与えられるのだけど、イノシシ型の矢部さんにそんな理屈は理解できない。
お客様は例年より早い鶏団子シーズンの到来がまさか一従業員のリベンジのためとは想像もしていないだろう。

最近、私の晩御飯には宅配献立サービスのメニューの他にもう一品、鶏団子と小松菜の煮物がつくことが多い。退勤後、店頭に出している鶏団子を矢部さんたちに見つからないようこっそり買い、自宅で再びボウルにあけて自主練をしているからだ。なぜこっそりかと言うと、まあそこは私の下らないプライドだ。

しかし、毎晩のように団子をこねる私の脳内は雑念だらけだ。

〝もし不合格なら関係を本物にする〟

(あれは告白……?)

タネだらけの手が止まり、ポヤンと中空を見上げる。
干物人生二十八年、突如起きた天変地異。

(いやいや)

普通に考えてそんなはずがない。だってあの北条怜二だし。
しゃにむに団子を丸め始める。

「あれは告白でなくて脅迫でしょ」

そうだそうだ。出会いからこれまでの私たちの経緯を考えてみるがいい。いったいどこにそんな色気がある? あの会話だって隅から隅まで嫌味だらけだったじゃないの。あれが告白なら世の中の会話すべて告白だ。