「もし不合格なら関係を本物にする。そういうことにしましょう」

「…………」

「では、僕は戻ります。まだここにいらっしゃるなら十六時までにご退出ください。電気はこのままで結構です」

数秒前の条件と同じく淡々とした口調でそう言い残し、彼は出口へ向かった。
高い位置にある腰、優雅な歩き方、幅のある肩とすっきりした襟足。完璧すぎる後ろ姿を言葉もなく見送る。
頭が現実逃避したがっているのか、あの脚の長さだとオーダースーツは特別料金がかかるはずだと、どうでもいいことを考えた。

「また近くなったら相談しましょう。では」

そんな声で現実に引き戻された私の視界の遠くで、パタンとドアが閉められた。

「……今のは何?」

一人残された会議室で茫然と呟く。


今のは何──⁉