「だから必要に迫られてというか、その、レ、レンタル彼氏とかで誰か見繕えばいいかなって思ったんですっ」

心底呆れているのだろう。北条怜二があまりに静かに聞いているのでかえって情けなくなり、最後の方は尻上がりで大声になった。

「少し声を抑えてください。内容が内容なので」

「すみません……」

私の前の机に腰を預けて聞いていた彼が身体を起こし、黙って出口に向かった。呆れ果てて立ち去ってくれるのかと思いきや、その期待は外れた。彼はドアを閉めに行っただけで、またこちらに戻ってきたのだ。

彼は腕組みをして元通り机に寄りかかり、とんでもない阿呆でも眺めるように私を見下ろした。

「要するに、見栄を張ってついた嘘が大勢の前で暴かれようとしている、そういうことですね」

「……はい」

長ったらしい説明から言い訳や脱線部分が取り除かれ、端的にまとめ直される。これだけでかなりの辱めだ。

「それでなぜ結婚相談所に?」

「いや、まあ、どうせなら本物をと……」

「で、空振りに終わったからレンタル何やらに手を出したということですね」

「そうです! そういうことなのでこの話はもう──」

「正直にカミングアウトするのではなく」

「…………」

この恥ずかしい話題がやっと終わったと思ったら、嫌味の前振りだった。
私だってカミングアウトすべきだと思ってるのよ。
だけどそのためにはかなりの気合と覚悟を育てなきゃいけないのよ。
あと数発は嫌味が飛んでくるものと身構えて待つ。

ところが次に来たのは嫌味ではなかった。

「その役、僕が務めましょう」

「…………」


まるで全世界が吹き飛んでなくなったかのような沈黙が落ちた。
北条怜二をまじまじと見つめる。腕組みをして私を見つめ返す彼は無表情だ。