結婚相談所でやらかしてからというもの、私はずっとローテンションだ。
北条怜二に出くわしてしまった衝撃は記憶から消している。……と言っている時点で消せていないのだけど、とにかく消している。

あのむかつくカウンセラーに対する暴言は後悔していない。路上で放ってしまったあれだって。

「ああ……」

北条怜二がまた出てきてしまい、顔を覆って呻いた。

「とにかく問題なのは趣味よ」

話を他にずらして考える。あの時エントリーシートに書けるような趣味が何一つないことに気づき、私って潤いのない女なんだなと改めて思った。

「勉強が趣味の戦車女なんてそりゃダメよね……」

こんな私を受け入れてくれる男性はこの世にいないのかも。
でも男のために無理して趣味を作るのも違うと思う。だったら開き直って小次郎と二人で生きていこう。

「趣味は茶道では?」

突如背後の入口で声がして、私は椅子から飛び上がった。
あのエントリーシートに苦し紛れに書いた嘘っぱちを知っているのは一人しかいない。それ以前にもうこの声だけでわかる。

(最悪だ……)

TOEIC試験は人事本部が主催している。でもこれまで試験会場に北条怜二が姿を見せたことはないので担当ではないと思っていたのに。