太めが好きな女性もいるだろうし、医者なら文句ないと言う女性もいるだろう。でも私は違う。そう思う権利ぐらい、頭でっかち年増女にもあるはずだ。

「もちろんこの他にも素敵な男性会員様は大勢いらっしゃいます。そのご紹介は入会後となりますので、お手続きに進ませていただきます。入会金は──」

「いえ、結構です。ありがとうございました」

強引に進め始めたカウンセラーを遮った。パンフレットを閉じて彼女の方に戻し、隣の椅子に置いていたバッグを持って立ち上がる。

「他を探してみます。お手数をおかけしました」

しかしこの台詞がカウンセラーの地雷を踏んだらしい。

「僭越ながら、他に行かれても同じかと思います。仁科様のために申し上げますが、女性の高学歴高身長はマイナスです。ご自分の現実を正しく認識されないとご結婚は難しいかと」

私がこれまでの人生で払ってきた努力と結果をこんな人に否定されたくない。
いい男と結婚したら価値が上がるの? 
結婚できなかったら女として価値がないの?

「それで結構です。自分の足で立つ能力はありますので」

踵を返し、つかつかとカウンセリングルームを出る。
私がよほど怖い顔をしていたのか、受付嬢が驚いた顔で立ち上がったので、形だけ微笑んで会釈した。

「紅茶をごちそうさまでした」

早く帰ろう。埼玉を恋しいと思ったのは初めてだ。
ところが二度と聞きたくない声が追いかけてきた。