半月ほどが過ぎた九月初旬の金曜日。
私は大きなマスクにメガネを装着した姿で、まだ残暑厳しい日差しが照り付ける丸の内を徘徊していた。

サービス業なので基本的に土日は全員出勤、休みが平日になってしまうのは致し方ない。マスクにメガネなのは菱沼社員に目撃される危険を考えてのことだ。

周囲を気にしながら歩いていた私は溜息をついて立ち止まった。目的の場所はもうとっくに通り過ぎている。

行く?
やっぱりやめとく?
いやいや、もう九月よ、崖っぷちなのよ。

回れ右をしてまた店の方向へと歩き始める。
何をそんなに躊躇しているのかというと──遠くに看板が見えてきたところで再び立ち止まった。

〝医師・弁護士・一流企業勤務男性多数 マリッジエージェント〟

「屈辱だわ……」

菱沼時代に何度もこの前を通りながら、こういう類のサービスの世話にならないわと根拠もなく自信を持っていたのに。

ここに来る前に色んな方法を考えてはみたのだ。

まずマッチングアプリ。顔画像を投稿しなければならず、ネット恐怖症の私はどうしてもそのハードルを越えることができなかった。

抵抗ない手段としては朝活。しかし埼玉奥地にそんなものはない。

ならば婚活パーティー。でもタイムリミットはすぐそこだ。烏合の衆の大海で悠長に釣り糸を垂らしている猶予はない。