疎開の日。

新大阪の駅まで来た鳥養が、なぜか駅にトランペットを持ってきていた。

一真は乗った。

ベルが鳴る。

そのとき鳥養は、トランペットで六甲おろしを吹き始めた。

まるで出征の進軍ラッパのような荘調な演奏に、はじめはなんだか恥ずかしかった一真は、青空を映した琵琶湖が見えるあたりになって、もしかしたら二度と関西には帰れなくなるかも分からない気持ちになって、思わず声を放って哭いたが、一頻り泣くと肚が据わったものか、憑物の取れたような顔になって、新横浜のアナウンスで下車の支度を始めたのであった。





【完】