お母様が私を実体化させてから、私は先生の理想通りに動く人形ではなくなった。私には自我が生まれた。先生の思い通りに動くだけの存在から、拒否権を手にした存在となった。
それを、先生は喜んでいる。
「そんなに……嬉しいですか?」
「ああ。少し前まで、僕が「不味いか?」と聞かない限り、ユウは「不味い」と発することが出来なかった。それが今は自分の意思で、進んで「不味い」と言える。僕の感情ではなく、僕の感情を上書きした、ユウ自身の感情が蓄積されている証拠さ。これを喜ばずしてどうする」
「理解不能です」
そう、理解不能だ。
理解は出来ても、理解が出来ない。
「うっかりポーズ設定を解除してしまいそうです」
「それはいけない。今生徒達に登校されても、ロクな教育受けさせてあげられない……覚えてるか? ユウ」
飲みかけの牛乳パックを私の前に置いた。理解出来る。飲んでくれということだ。
「『成金ムテ金学院』を運営していたとき、僕は君に言った。ゲームは一人より、複数でする方が楽しいと」
「覚えています。先生はこんなガイドの私といて、楽しいですか?」
「楽しいよ。昔からずっと。ユウといて飽きた試しがない。だけど……あのとき以上に、今が楽しい。孤独な人間は実在する同類を求め、欲深くなり自身の理解者を求める。それがどちらも叶って、楽しくないわけない」
椅子に首を預け、人間が眩しいと感じるはずのライトに彼は顔を向ける。
「この時間が……ずっと続けば良いのに……」