デメリットしか見当たらない。

 名家の娘に婚約者がいる。その相手が年上の青年。それについては何の問題もないが、その相手が娘の通う学校の教師となると話は変わってくる。周囲に知られれば、佐藤のスキャンダルになりかねない。こちらが教師をしていることを、どこの学校の教師なのかを知りながら、あえて娘を同じ学校に入れさせる理由が考えても分からなかった。元から娘を違う学校に入れていれば、わざわざ嘘をついて……これから芝居をする必要もないというのに。

 彼女は少し黙り込んでから、静かに言った。


『あの子は人との関わりを避けている部分があるの。きっと、あなたを婚約者だと紹介しても、受け入れられないと思う。自然と絆が生まれるには、肩の力を抜いて信頼を築く必要があるわ。親が決めた相手だからとギクシャクしたままじゃ、絆は生まれない。そんな微妙な遠慮し合った関係を続けて、そのまま結婚してもいいことなんてないと思うの。だから――』

『自然の絆を築けるように、教師と生徒、兄と妹として』

『そういうこと。あの人と相談して、これが一番だって納得したの。兄と妹と嘘をつくことで、家族の絆を手にするだけでなく本当は婚約者だって事実を学校側に隠せられるからね。一石二鳥というやつよ。でも……あなたにとっては凄く迷惑ね。ごめんなさい』