つい先ほど美味しいと感じた筈の海鮮が、今の一瞬で不味いものへと変わった。料理というのは五感で楽しむ他に、共にする相手にも味を左右される。その相手が自分にとってどういう存在か、その相手は自分にどういう言葉を投げかけてくるか。それらにより、美味しいものはいつだって美味しくないものへと変わる。
別に、彼女は怒っているわけではない。
ただ、彼女の言葉が……自分にとって聞きたくないものだった。
今も変わらず、彼女は穏やかな笑みを浮かべていた。
『生まれた子供同士を結婚させよう』
穏やかな笑みと共に、彼女は言った。
『親友同士で交わした約束とはいえ、冷静に考えてみれば、子供は被害を受けたも同じ。あなたが嫌なら、気にせず断ってくれていいのよ。これまで通り普通の教師と生徒でいる道がある。どう?』
『その提案は却下させていただきます』
『あら。どっちでもいいっていう返しを期待していたわ』
『そんなことを言ったら、俺は旦那さんに殺されますよ。半端な奴に娘はやれん! ってね』
『ふふっ、そうね』
空気の中和に成功した。
マズイ海鮮が再び美味しくなる。イカはやはり、やりいかが一番だ。
『前から気になっていたことがあるんです』
話題を逸らさず、それでいて話題を逸らした。
『どうして、娘さんを俺の学校に?』